LAMU の考察 Blog『すずめの戸締まり』

新海誠監督作『すずめの戸締まり』の関連情報の紹介と、本編の考察を綴る LAMU 最後のブログ

マイ考察 [第2回] 後ろ戸と要石、ミミズ、常世とは何なのか

   

はじめに

 こんばんは、LAMU です。映画『すずめの戸締まり』が公開されてから丁度一ヶ月経ちましたね。前日 11(日) までの興行累積が、動員数 636.6万人、興行収入 85.9億円を超えたんだそうですよ。私も2回目の鑑賞を済ませ、来場者特典の『新海誠本2』をゲットしてきました。それはさておいて、今回も「ネタバレあり」で考察していきます。本作『すずめの戸締まり』をまだ鑑賞されていない読者の方は、どうか劇場で視聴されてから読まれることを強く推奨いたします。 

※ ここからは ♪ サントラ:すずめの戸締まり ♫ を BGM に流しながらお読みください・・・ 💁

   

   

お知らせ【12月12日】

👆 クリスマスから年始にかけて、映画館鑑賞3回目を計画しようかな・・・。

後ろ戸

 災害装置とも言える「後ろ戸」は『新海誠本』で紹介されている『すずめの戸締まり』企画書前文によると、そもそもは古典芸能における概念であり、神や精霊の世界に繋がる扉のことであるそうな。また日本古来の芸術表現は「後ろ戸の神」から授かる超常的な力が源泉と考えられていたとか (p.5)。

 人がいなくなってしまった場所そのものが後ろ戸となり、その扉は (勝手に) 開くことがあって、そういう扉からは、善くないもの (≒ ミミズ) が出てくるんだと、草太は鈴芽に説明している (公式小説 p.39、p.60)。さらに、人を脅かす災害や疫病は、後ろ戸を通って常世(あの世) から現世(この世) にもたらされるが、ある種の災い、数百年に一度のような巨大な災害は、後ろ戸を閉めるだけでは抑えきれないため、そういう時のために、古よりわが国には二本の要石が与えられているという (公式小説 p.178)。

 映画本編では、鈴芽の居住地そばにある廃墟と化した温泉街のセンタードームと、愛媛で鈴芽が知り合った海部千果(17) が中学時代に通っていた廃校、神戸で住む二児のシングルマザー:二ノ宮ルミが懐かしんだ廃遊園地の観覧車、そして東京では御茶ノ水駅そばを往来する東京メトロ丸ノ内線のトンネルの奥が、それぞれの土地の後ろ戸になっていた。そのなかでも東京の後ろ戸は廃墟ではないことから、トンネル口からミミズが出てきた背景には、他地域の廃墟事例とは全く異なる原因があったと解釈できる。この件については次回の考察テーマで深堀りしていこうと思う。

要石

 草太のアパートに着いた鈴芽は、椅子の姿の草太から和装の古文書『閉ジ師秘伝ノ抄』『要石目録』を見せられる。前者の見開きいっぱいに噴火の画が描かれており、黒い墨で集落と山が描かれていて、山から噴き出す炎が真っ赤な顔料で描かれていた。ページをめくると龍の絵図があった。蛇行する長い体の隙間に山や集落や湖が描かれ、龍と土地は一体であるかのような印象を受ける。その端と端、頭と尾のそれぞれに、巨大な剣のようなものが刺さって (公式小説 p.176、p.177) おり、それが要石であり、西の柱と東の柱だという。

 その剣は曖昧な形の、島らしき地形の端と端に刺さっていたり、ページを進めていくうちに解像度が上がったように日本地図が写実的になり、剣は、東北の端と琵琶湖の下あたりだったり、千葉県の銚子辺りと淡路島に刺さっていたりもした。

「地図の変化は、日本人の宇宙観(コスモロジー) の変化だ。人の認識が変われば、土地の形も変わり、龍脈や災害の形も変わっていく。それによって要石を必要とする場所も変わる。ゆっくりと変化しつづける人と土地との相互作用の中で、その時代ごとに本当に必要な場所に、要石は祀られる。人の眼の届かない、人々に忘れられた場所で、要石は何十年、何百年にもわたり、その土地を癒やし続けるんだ」(公式小説 p.179) と草太は鈴芽に説明していた。

 映画本編によると、2023年時点の日本には西の要石が宮崎県南部に、東の要石は東京都心:皇居の地下に存在している。実際のところ、要石は実在しており、茨城県鹿島神宮と千葉県香取神宮にて祀られている。下記上側の要石の写真は鹿島神宮、下側にある石囲みの要石画像は香取神宮のものである。最下欄の引用出典に両宮のリンクを貼っておくので、関心がある読者の方はぜひ参照してもらいたい。

 双方の要石は引き抜こうと数日間掘り続けてもそれは叶わず、かえって掘る人間が怪我してしまうなど謎めいた逸話が共通している。それに比べて映画本編で、猫の姿に変わり自由の身となった宮崎の要石は、いとも簡単に女子高校生:鈴芽一人の手で引き抜かれているのである。この背景についても次回の考察テーマで自論を述べていく。

ミミズ

 本作で描かれている巨大な異型物の「ミミズ」は、日本列島の地下にある国土構造線のようなもの、そこに溜まるエネルギーの塊そのものとして説明されている。「目的も意志もなく、歪みが溜まればただ暴れて土地を揺るがす」と草太は言っているが、彼や鈴芽の目には、その歪みといったエネルギーそのものがミミズのような生き物に見えている、そんなつもりで描写している (👉 公式パンフレット p.15)と、新海監督自ら打ち明けている。現実には、プレートの運動によって地震は起きるが、本作では科学的な地震の起きるメカニズムとは切り離して地震現象を描いている。

 この「ミミズ」のモチーフには、江戸時代まで日本人が地震を起こすと信じていたナマズや、もっと昔の日本の地図で描かれる、龍のような生き物の上に人が住んでいるという世界観に基づいた「長い生き物」というものがある。新海監督曰く「ミミズ」というネーミングは、村上春樹著『かえるくん、東京を救う』に登場する、新宿区役所の地下にいて地震を引き起こす「みみずくん」と「かえるくん」が戦い、かえるくんが東京を大震災から守るという物語から発想を得て、多くの影響を受けたという。

 さて、ラストの常世のシーンであるが、月夜の後ろ戸から現世へ昇り出ようとするミミズから、確固たる意志のようなモノを私は感じたのだが、それに対峙するサダイジン (元:東の要石) が必死にミミズの動きを封じ込めようとするがために、ミミズのラスボス感が半端なく感じられただけだったのだろうか。この辺りの考察を次回、サダイジンの登場の謎を紐解きながら触れてみたい。

常世

 神戸の廃遊園地にある観覧車の中で、草太は “生命拾い” した鈴芽に常世について説明している。常世とは、この世界の裏側。ミミズの棲家、すべての時間が同時にある場所。そして死者の赴く場所でもあるので、現世に生きる者たちは入れない場所、入ってはいけない場所。だから入れなくて当然なんだと (公式小説 p.149、p.150)。また東京では、草太を育てた祖父の羊朗が「常世は、見る者によってその姿を変える。人の魂の数だけ常世は在り、同時に、それらは全てひとつのもの」と鈴芽に教えている。「おおかた、あなたは幼い頃に常世に迷い込みでもしたのだろう。」と話を続け、そのときに開けた扉が、常世に入ることが出来る唯一の後ろ戸であり、人のくぐれる後ろ戸は生涯にひとつだけである (公式小説 p.244、p.245) 事まで、初対面の鈴芽に伝えている。

 このときの二人のやり取りについては、後日改めて考察してみたい。さて新海監督は、鈴芽が夢でいつも行く場所としての常世を美しく描いている一方で、草太が復活して鈴芽と二人で見下ろす常世の風景を、燃えている町の全景としている。ラストのシーンで、家も家族も津波にのまれ火の手が上がったままの光景を、やはり鈴芽の行く常世はそういう場所でなければならないと監督は考えたそうだ (新海誠本 p.13)。鈴芽の心の中では、12年の年月を経た今日であっても町はまだ燃えているんだと。

 だとしたら鈴芽は何をすれば良いのか。ミミズを封印するだけで良いのか。いや、その土地、場所にあったはずの人たちの「おはよう」「行ってきます」「行ってらっしゃい」の声を、鈴芽は聴かなければいけないのではないかと思うに至ったという。無論、東日本大震災の被災者の方々の中には、そのようなビジュアルや生々しい声を見聞したくない人は、少なからずいるに違いない。しかし十分に時間をかけて考えに考え尽くした結果、3.11 という実際に起こった災害を扱う覚悟が固まったという新海監督。震災以降ずっと頭の中にあった課題のようなものに真正面から対峙して完成したのが、本作『すずめの戸締まり』というわけである。これぞ新海監督の集大成にして最高傑作と評される由縁であろう。

 さて次回は2つの「要石」について、鈴芽によって猫の姿で自由の身となった元 要石:ダイジン視点での旅路と、もう一方の要石:サダイジンの登場の謎について考察していきたいと思います。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。    

 

おまけ動画

twitter.com

👇 番組冒頭で紹介された新海監督直筆の絵。3.11 の震災から3ヶ月後、被災地を訪れた監督が現地で描いた。

スペシャル座談会 [音楽の扉] 

 

 

 

『すずめの戸締まり』公式サイト

   

動画出典:Bee Add − Open Space − 、

                     東宝 MOVIE チャンネル

引用出典:新海誠

                「小説 すずめの戸締まり」、

                    公式パンフレット、

                    来場者特典の「新海誠本」

                                        「新海誠本2」

鹿島神宮 https://kashimajingu.jp

香取神宮 https://katori-jingu.or.jp

画像出典:特報動画と Twitter

                「新海誠本2」

情報出典:映画「すずめの戸締まり」公式

              ドラニキ [大卒ニートの野望] さん

                   新海誠監督の Twitter

                   MANTAN WEB

 

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